☆…小林沙苗ちゃんではなく甲斐田裕子さんでした。というわけで、私の感想。


■「4人の食卓


監督のイ・スヨン自身が高層マンションを舞台にした意味についてチラリと語ってますが(シネマジャーナル)、
この映画で綴られていく孤独なイメージにぴったりの舞台だといえます。
私も、以前住んでいた十数階のマンションは前に十数棟の団地が建っていて、無機的なイメージがこの映画の舞台と
似通ってました。人は大勢住んでいるはずなのに、深夜には人の気配がまったくなくなり、
コンビニに行くときなど時折り、孤独な妄想にとらわれることもありました。
そこのエレベーターは防犯上の理由から深夜は各階止まりになるのですが、止まる度に扉が開いてもどこの階も誰もいません。
そんな時ふと「死後の世界がもしあるとしたら今乗っているこのエレベーターのようなものかもしれない。
大勢の人はいるはずなのに誰にも出会わない。気配すら感じられない。もし、死後の世界がそんな世界だったら…」
とか。たわいもない妄想ですが。


4人の食卓」では自分の心の中に沈潜していく孤独なイメージが散りばめられていきますが、最終的にテーマで
一つに収束はしていません。「事実」と「真実」、というテーマらしきものもありますが、十分描かれていたとは
感じられませんでした。
一つ一つのイメージは断片的に意味を与えられて断片的に提出されているだけです。
でもそれぞれのイメージにはこちらに訴えかけてくる力は感じました。
それを見た人に、いつのまにか気が付くと普段の日常で忘れている自分自身の心の中にしまっておいた過去のイメージを
呼び覚まそうというような意思がこもっているようにも思いました。


怖いとは感じられませんでした。というか、“ホラー”というキャッチフレーズは違うような。


個々のイメージのなかで気になったのは、枯井戸(?)のシーンはもう少し描いてくれてもよかったでしょう。
短すぎて何だかわからなかったです。あれ、もしや、くらいには気がつかせてほしかった。
あと火のつくシーンははっきり描いてもよかったんじゃない?赤色灯への変化も面白いといえば面白いけど、
微妙にお預けを食った気分になったので。
この監督は、証言への介入(?)シーンでもそうだけど、説明を省くところがけっこうあって、少しずつ欲求不満が溜まりました。


ともすれば散漫になるタイプの映画を、それでも一つの作品としてまとめ上げている装置が、4人用の食卓。
食卓はもっとも日常的で現実的な場所のはずですが、この映画では非日常への入り口になってます。
青い奇妙な食卓が主人公のマンションに来てから、この不思議な物語が始まります。
途中、父親の牧師宅で4人用の食卓を囲む場面もありますが、この家族は3人で椅子は埋まりません。
婚約者が来て人数が揃いそうになるときは肝心の主人公が不在です。家族団らんの象徴である食卓には、4人揃わせません。
初めて青い食卓に4人揃うのは映画のラスト。それも二人は死者で一人は死んでいるのか生きているのか、
すべては妄想だったのか判然とはしないまま物語は終わります。
心の中が語られているのが主人公、チョン・ジヒョン、ジヒョンの夫、ジヒョンの親友の4人いるので、
4人の食卓」はその意味ともとれますが。


監督のイ・スヨンはイメージ喚起力のある映像を作ることに成功していると思います。
才能をデモンストレーションしているようにも見えます。
いつかこの人にはもう少し娯楽性の強い作品も撮ってほしい。そう思わされました。
やはり「猟奇的な彼女」の“彼女”のイメージが強いチョン・ジヒョンは、ここではノーメイクで一度も笑わず、
この現実離れしたヒロインを演じています。微細な表情の変化、ベッドに腰掛け横になるところなど、細かな演技をしています。
これはこれで、魅力的だと思います。


吹き替えは、チョン・ジヒョンをあてた甲斐田さんは、事件に会う前の若く華やいだ声がほんの一部で、
ほとんどは病んでしまった後のシーンなので、低くこもった声を使ってます。
猟奇的な彼女」でジヒョンをあてた沙苗ちゃんは、これまでサスペンス色、ホラー色の強い作品を数多くあててるので、
このチョン・ジヒョンも沙苗ちゃんで聞きたかったとは思いました。
甲斐田さんには「猟奇的」のTV新録でジヒョンをあててほしかった。
東地さんはナイーブでいい感じ。婚約者の本田さんは、少し声の方が女優さんに勝っちゃった印象。
妹役が誰かわからないんだけど可愛い声でした。


日本語吹き替え
ヨン:チョン・ジヒョン甲斐田裕子
ジョンウォン:パク・シニャン東地宏樹
ヒウン:コ・ソン/本田貴子
カン牧師:チョン・ウク/佐々木敏
ジョンスク:キム・ヨジン/加藤優子
内田直哉 長克己 鈴木琢磨
木村有里 遠藤綾 石井隆夫
仲野裕 金沢映子 松本大
星野充昭 河本邦弘 多緒都
細野雅世 牧之瀬ゆい

演出:高桑一
翻訳:根本理恵
台本:松井まり